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熱い。 熱い、熱い、熱い。 顔に焼けるような熱さを感じ、僕は目を覚ました。 熱い、熱い。 目を覚ましたはずなのに辺りは真っ暗で、顔は火がついたように熱かった。 熱い、熱い。 何かが顔に張り付いている、これのせいで熱くて視界がきかない。 なんだ、くそ、邪魔だ。 動きの鈍い体を強引に動かそうとするが、何かに邪魔をされた。 邪魔だ、俺はこの顔にあるものを取りたいんだ。 熱いんだ、熱くて仕方が無いんだ。 「スザクっ!落ち着きなさいよ!」 耳元でカレンの叫び声と共に、体が抑えこまれた。 一人じゃない、複数人に体を抑えられている。 わけのわからない状況に、脳はパニックを起こした。 「邪魔するな!」 熱いんだ!これを外したいんだよ! たったそれだけの事なのに、どうして邪魔をするんだ! 「邪魔するわよ!落ち着きなさいって!」 カレンの叫び声と、見知らぬ人間の声。 落ち着いてください、もう大丈夫です、そんな知らない声が聞こえる。 カレンだけじゃない、複数の人間がこの体を押さえ込んでいるのだ。 ・・・知らない人間? 痛みと混乱で麻痺していた意識にそこが引っかかった。 今カレンはなんて呼んだ? ゼロじゃなく、スザクと呼ばなかったか? いや、その前にこの顔にあるはずの仮面はどこに!? 間違いなく、この顔に仮面はない。 バレた!? ゼロが、枢木スザクだと。 死んでいるはずのナイトオブゼロだと周りに知られた!? 「離せ!!」 冗談じゃない、さらし者になるわけには行かないんだ。 ゼロは無。 中にいるのが、悪逆皇帝の騎士だと知られる訳にはいかない。 拘束を振りほどこうとあがくが、何人もの人間に四肢を抑えられているし、体中焼けるような熱さと痛みのせいか、ろくに力が入らなかった。 「大丈夫だから!落ち着きなさい!あんた怪我してるのよ!傷が開くでしょう!!」 カレンの必死な声。 「そうですゼロ!手術が終わったばかりですから安静にしてください!」 見知らぬ男性の声・・・いや、違う。この声はルルーシュのギアスをかけた、ゼロの、僕のための用意された医師の一人の声だったはずだ。周りの声もそう考えれば、ゼロのために配置された部下の声、全員ルルーシュのギアスでゼロの秘密を守ることを命じられた者たちだ。 仮面の下がスザクであっても、口外することのないものたち。 カレンもまた、ゼロの真実に口を閉ざした一人だ。 ゼロの秘密は、外部には漏れていない・・・。 怪我、手術? ようやく暴れるのをやめたスザクに、周りは安堵の息を吐いた。 「あんた、覚えてないの?今日何があったのか」 それとも、ショックで記憶が飛んだのかしら? カレンが心配そうに声をかけてきた。 乱れた布団はかけ直されたが、また暴れたら困ると両手はカレンが抑えていた。 怪我。 顔が熱いのは怪我のせいか。 そういえば、腕と胸と腹の辺りも熱く痛む。 「麻酔が切れたのでしょう」 予想より早いのですが。 ゼロの、スザクの定期検診もしている医者だろう。耳に馴染んだ声だった。 「どう?痛むの?」 「・・・痛いし・・・あつい」 心配そうなカレンの声に、ポツリとそれだけ返した。 麻酔、手術、怪我。 駄目だ、思い出せない。 何があった? 今日は何をしていた? 真っ暗な視界のせいか余計に頭が混乱している。 恐怖と混乱で頭が痛い。 「鎮痛剤をすぐに用意します」 と、医者は部屋を後にした。 「スザク、大丈夫?今日のこと思い出せないの?」 「今日・・・僕は・・・」 口の中がカラカラに乾いてた。 それでもどうにか言葉を絞りだす。 「会議に出てたのよ、超合集国の。今回の開催国はブリタニア。そこまでは理解る?」 ああ、そうだ。 各国の代表がブリタニアに集まっていたんだ。 ゼロレクイエムのあの日戻ってきたゼロは、超合集国からも黒の騎士団からも切り離された存在となった。そのどちらも監視する存在というべきか。 そこでゼロはあくまでも傍観者、あるいは審判のような位置で代表の発言を聞き、問題がない限り口出しはしない。問題があっても、大抵はシュナイゼルが発言して終わる。ほとんど口を開く事はなく、ただそこにいるだけでその場を支配する存在。口を開けばボロを出す可能性があるため、シュナイゼルがそうなるよう仕向けたのだ。 だから今日も監視者としてゼロは参加していた。 「・・・1回目の休憩時間までは記憶がある」 2時間毎に休憩時間が取られている。 「爆破テロがあったのよ、その休憩時間に・・・ゼロの休憩室を狙っての犯行よ」 仮面をつけている間飲食の出来無いゼロは個室が用意されている。 護衛は個室の前まで。 そこで別れ、ゼロが一人になった瞬間に、部屋の中の爆弾が爆発した。 親衛隊の隊長であるカレンは、ゼロの護衛の責任者でもあるため、すぐ傍にいた。 だから爆発の直後真っ先に室内に入り、倒れているゼロを発見した。 部屋の中は酷い有様だったが、さすがスザクというべきか、あれだけの爆発では考えられないほど軽症だった。 ただ。 よけきれなかった破片が、ゼロの仮面を直撃していた。 「あんたの顔は私とここの医師以外誰も見てないわ。それだけは断言する」 仮面の前面が割れ、顔から血を流している姿に一瞬血の気が引いたが、割れた仮面から覗く懐かしい顔に、その正体を知られてはいけないと、カレンはすぐに自分の着ていた上着を脱いで、ゼロの顔を隠した。 ・・・思い出した。 爆発と共に飛び散った瓦礫。 鋭い破片となったそれらを反射的に交わしたが、正面からの破片をかわしきれなくて。そこで意識がブラックアウトした。 仮面が割れた話と辻褄があう。 強化ガラスでできていたが、それを壊すほどの勢いだったのだろう。 割れた破片、顔の痛み、そして。 「・・・それで、怪我の状態は?」 まず先にそれを話すべきだろう。 だが、カレンはそれを避けているようにも思えた。 「それは・・・その」 やはり、この話題は話しづらかったのだろう、饒舌だったカレンの口が重くなった。 彼女の態度で、最悪の想像はすぐにできた。 「カレン」 せっつくように名前を呼ぶと、カレンはハア、と息を吐いた。 「・・・わかってるわよ。落ち着いてきいて。スザク、あんたの体の方の傷は大したことはないわ。でも、あんたの両目・・・仮面の破片が刺さったの」 ブラックアウトした時に、その両目はまだ開いたままだった。 当然だ。 目を閉じれば視界が閉じる。 かわせるものもかわせなくなる。 だからギリギリまで目は開いていた。 瞼があれば守れたかもしれないダメージもすべて直接眼球に。 「破片は全部取り除けたけど・・・視力が戻る可能性は・・・かなり低いそうよ」 予想通りの答えだった。最悪の予想通りの。 かなり低い、と言うのは目が治る希望をもたせようとしているだけに過ぎない。 恐らく、限りなくゼロに近いのだろう。 「・・・そうなんだ」 失明した。もうこの目がものを見ることはない。 まだ整理のつかない頭で、スザクはそれだけは理解した。 |